「中小企業の海外展開に関する調査」レポートに見る日本の中小企業のチャンスと課題
この記事では、中小企業基盤整備機構が実施した「中小企業の海外展開に関する調査(2024年)」レポートに見る日本の中小企業のチャンスと課題について、解説します。
1. 調査の背景と目的
グローバル市場の拡大と国内需要の停滞が進む中で、日本の中小企業も新たな成長機会を求めて海外市場へ進出する必要性が高まっている。本調査は、こうした時代背景のもと、中小企業の海外展開の実態と課題を把握することを目的に実施されたものである。
対象は全国の中小企業経営者・幹部1,000社で、調査方法はWebアンケート方式。結果は、支援機関や政策立案者が今後の支援策を検討するための基礎データとして活用されることを想定している。
2. 海外展開の現状と関心度
調査によると、「すでに海外展開を行っている」企業は13.3%であった。これに「予定がある」(2.1%)、「関心がある」(15.6%)を加えると、約3割の企業が海外市場に対して何らかの関与や興味を示している。一方で、「関心もない」と回答した企業が69.0%と大多数を占めており、依然として国内志向が強い構造が見られた。
規模別にみると、従業員数が多い企業ほど海外展開率が高く、「101人以上」では37.7%に達しており、経営資源の余力が海外進出の鍵を握っていることがうかがえる。
3. 展開形態の傾向:輸出・投資・委託の三本柱
海外展開の形態として最も多かったのは「海外への直接輸出」(44.4%)で、次いで「海外への直接投資」(39.8%)、「生産・販売委託」(38.3%)と続いた。こうしたデータは、中小企業が単なる輸出にとどまらず、製造や販売拠点を海外に構築する動きが進んでいることを示している。
一方、「越境EC」を活用している企業は4.5%にとどまり、デジタルチャネルを用いた展開はまだ限定的である。国内ではEC市場が拡大しているものの、越境ECにおいては言語・物流・決済などの障壁が依然高い。
4. 進出先の地域:アジアから北米へ広がる動き
進出先の地域を見ると、中国(香港・マカオを除く)が58.6%と最多で、次いで北米(米国・カナダ)36.8%、韓国33.1%、タイ30.1%、ベトナム27.1%と続いた。アジア圏が中心ではあるが、北米市場への関心も拡大しており、特に越境ECでは北米が主要ターゲットとなっている。
1970年代以前から進出している企業は8.3%と少数であるが、2000年代以降は急増し、2010年代には27.1%に達した。円高期を経て為替が安定した時期に、積極的な展開が進んだとみられる。
5. 海外展開の成功要因:信頼できるパートナーの存在
海外展開を実現できた要因として、「信頼できる現地パートナーの開拓」が54.9%と最も多かった。現地での販売や調達を円滑に行うためには、法制度や商慣習に精通したパートナーの存在が不可欠であることを示している。
次いで「現地市場ニーズへの適合」(33.8%)、「顧客開拓」(33.1%)が挙げられ、製品やサービスを現地仕様に合わせる柔軟性が成功を左右していることが分かる。単なる輸出ではなく、現地化戦略を伴う展開が中小企業にも求められている。
6. 主な課題:人材不足と為替リスク
一方で、海外展開における課題も明確になった。最も多かったのは「海外事業に対応できる人材がいない」(32.9%)と「為替変動リスク」(32.9%)。さらに「信頼できる現地パートナーが見つからない」(31.9%)も上位に挙がった。
特に人材面の課題は深刻で、語学・法務・貿易実務に精通した人材の確保が難しい現状がある。これは多くの中小企業が海外展開に踏み切れない最大の要因の一つとなっている。
7. 支援機関と相談先の実態
海外展開にあたっての相談先としては、「日本貿易振興機構(JETRO)」が33.2%でトップとなり、次いで「取引先企業」(25.2%)、「海外展開を行っている他社」(20.0%)、「中小機構」(18.4%)、「取引金融機関」(18.1%)が続いた。
この結果は、既存ネットワークに頼る傾向が強いことを示すとともに、支援機関の存在が一定の認知を得ていることを裏付けている。ただし、相談経験のない企業も多く、支援制度のさらなる周知が課題である。
8. 今後の展開方針:円安を追い風に輸出拡大へ
今後の経営方針としては、「海外への直接輸出を増やしたい」(30.0%)、「生産・販売委託を増やしたい」(23.2%)、「間接輸出を増やしたい」(20.6%)と続いた。
円安傾向により日本製品の価格競争力が高まる中、輸出志向が強まっている。一方で、「現状維持」とする企業も18.4%あり、リスク回避的な経営判断も見られる。海外事業からの撤退・縮小を考える企業はわずか4%程度にとどまり、全体として前向きな姿勢が確認できる。
9. 期待される支援策と政策的示唆
支援策として最も期待が高いのは「補助金・助成金」(13.7%)であり、次いで「リスク管理のための保険や情報提供」(10.3%)、「融資・保証」(10.0%)が続いた。
この結果は、資金面だけでなく、リスクヘッジや情報アクセスへの需要が大きいことを示している。中小企業が単独で海外展開を行うには限界があるため、官民連携による総合的支援体制の整備が求められる。
10. まとめ:中小企業の海外展開を支える鍵とは
本調査から浮かび上がるのは、海外展開を成功させるための三要素——「信頼できる現地パートナー」「海外対応人材」「的確な支援制度」である。多くの企業が海外展開の必要性を認識しつつも、人材や情報の不足が壁となっている。
今後は、地域商社・支援機関・金融機関が連携し、中小企業が海外とつながるための“伴走型支援”を強化することが重要だ。日本の中小企業が持つ技術力や品質を、世界の市場に持続的に届けるための環境整備が急務である。
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