「中小企業の海外展開:ドイツとの比較」レポートに見る日本企業の課題と示唆
この記事では、岩本 晃一氏による連載 第182回『中小企業の海外展開:ドイツとの比較』について、解説します。
「中小企業の海外展開:ドイツとの比較」サマリー
― 慎重な日本企業と積極的なドイツ企業、その差はどこにあるのか ―
日本の中小企業の海外展開は、依然として限定的である。経済のグローバル化が進む中で、日本企業が海外市場への進出を模索する動きはあるものの、全体的には慎重姿勢が強く、国内志向が根強い。これに対してドイツの中小企業は、早期かつ積極的に国際市場へ打って出ており、その違いは明確だ。本稿では、岩本晃一氏がRIETIコラムで示した分析をもとに、日独比較から中小企業の国際展開の構造的な差異を整理する。
1. 日本中小企業の現状と課題
日本の中小企業は、国内市場の縮小に直面しつつも、海外展開への動きは鈍い。理由の一つは、「国内でまだ何とかなる」という認識と、海外進出に伴うリスクへの過度な警戒である。多くの企業が国内の取引関係に依存しており、新たな市場開拓やリスクテイクを避ける傾向がある。また、経営資源の制約、人材不足、情報アクセスの欠如も障壁となっている。
2. ドイツ企業との比較:研究から見える違い
難波・福本・藤本(2013)の比較研究によれば、同じ製造業でもドイツ企業はより早く海外展開を行う傾向があり、その際の動機づけも「市場拡大」より「競争優位維持」「顧客の国際化への対応」といった積極的理由が多い。日本企業が海外展開を“最後の選択肢”とするのに対し、ドイツ企業は“当然の経営行動”と捉えている点が対照的だ。ドイツでは中堅・中小企業(Mittelstand)が世界市場でニッチトップを狙う構造が定着しており、企業のDNAとして国際化が内在化している。
3. “石橋を叩いて渡る”日本企業の構造的慣性
日本企業が慎重すぎる背景には、国内市場での取引安定性や系列関係、リスク回避文化がある。特に製造業では「品質」「信頼」「長期関係」が重視されるあまり、新しい市場や取引先への挑戦を後回しにする傾向が強い。また、為替リスクや法制度の違いへの不安、語学・文化的障壁も心理的ブレーキとして作用している。その結果、海外市場での存在感を高められず、サプライチェーン全体でドイツ企業との差が広がっている。
4. ドイツ中小企業の成功要因
ドイツでは、Mittelstand企業が早期に国際展開を実現し、輸出比率が高いことが知られている。彼らは自国市場が小さいことを前提に、初めから海外市場を主戦場として設計している。また、技術・品質に加え、現地化対応(ローカルパートナーとの協働、人材登用)に積極的で、海外拠点を通じたグローバルネットワークの構築にも長けている。ドイツの産業支援体制(商工会議所、地方銀行、職業教育制度など)が中小企業の海外展開を後押ししている点も、日本との大きな違いである。
5. 日本企業への示唆
日本企業がドイツ型の国際展開を進めるには、「守りの経営」から「攻めの現地化」への転換が求められる。単なる輸出ではなく、現地市場や顧客との接点を重視し、現地法人や技術サポート体制を整えることが重要だ。また、行政支援や金融機関の役割も問われる。リスクを恐れず「実験的に小さく始める」姿勢を持つことが、海外展開成功の第一歩となるだろう。
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