システム導入後に必須!データクレンジングとマスター整備の実務
新しい業務システム(ERP、CRM、PIMなど)の導入プロジェクトが無事完了し、「さあ、これから本格運用だ!」という段階で、多くの企業が直面するのが「データの汚れ」という隠れた課題です。
新システムに移行したデータが古い、表記がバラバラ、重複しているといった問題(ダーティデータ)を放置すると、せっかくのシステムも真価を発揮できません。むしろ、誤ったデータに基づく意思決定により、ビジネスリスクを高めることさえあります。
この記事では、システム導入を成功裏に終わらせた後に継続的な成果を出すために必須となる、「データクレンジングとマスター整備」の実務について解説します。
1. 「データクレンジング」の必要性:なぜデータは汚れるのか
データクレンジングとは、システム内のデータの誤りや不整合を特定し、修正・削除して、データの品質を向上させる作業です。
データが汚れる主な原因は、過去の属人的な運用や入力ルールの不在にあります。
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データが汚れる主な原因 |
具体的な例 |
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表記の揺れ |
「株式会社」が「(株)」「カブシキガイシャ」など、バラバラに登録されている。 |
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不完全なデータ |
住所や電話番号の一部が欠落している、または古い情報が更新されていない。 |
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重複データ |
同じ顧客や商品が、異なるIDで複数登録されている(重複登録)。 |
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フォーマット不一致 |
価格のフィールドに「\マーク」や「税抜」といった文字列が入っている。 |
これらのダーティデータを放置したままシステムを運用すると、「正確な在庫数がわからない」「特定の顧客だけを抽出できない」「自動連携がエラーになる」といった深刻な問題を引き起こし、システムの信頼性を根底から損ないます。
2. マスター整備の実務:PIM/MDMで「データの心臓部」を作る
PIMは商品情報管理システム、MDMはマスタデータ管理を意味します。データクレンジングを一時的な作業で終わらせず、継続的な取り組みにするためには、全社共通の「マスターデータ」を整備することが不可欠です。
(1) データ項目の「定義」と「ルール」の統一
全社的なデータ整備は、まず各マスターデータ(商品、顧客、取引先など)の項目定義から始めます。
- 項目名の統一: 「商品名」なのか「製品名」なのか、全社で統一した呼称を定める。
- 入力ルールの策定: 「住所は番地まで必ず全角で入力」「電話番号はハイフンなしで統一」といった具体的なルールを策定し、全ユーザーに周知徹底する。
- 必須項目の設定: 業務に必要な項目が漏れないよう、必須入力項目を設定する。
(2) PIM/MDMによる一元管理体制の構築
マスターデータをExcelなどで管理し続けるのは限界があります。PIMやMDMといったマスターデータ専用のシステムを導入し、「データの心臓部」として一元管理することが、次世代のシステム戦略では求められます。
PIM/MDMを中心とすることで、マスターデータへの更新権限を一箇所に集中させ、他のシステム(ERP、CRMなど)へはPIM/MDMから常にクリーンなデータだけを供給する仕組み(ハブ&スポーク構造)を構築できます。
3. データクレンジングを「継続する」ための運用術
クレンジングとマスター整備は、システム導入時の一度きりのイベントではありません。データは常に発生し、常に汚れる可能性があるため、運用フェーズに入ってからの継続的な取り組みが必要です。
(1) データ品質チェックを業務フローに組み込む
- 入力時のチェック強化: システムの入力画面で、表記ルールに反するデータや重複が疑われるデータに対して、リアルタイムで警告やエラーを出す仕組み(サニタイズ機能)を導入する。
- 定期的な監査: 月に一度、データ監査チームが主要なマスターデータ(特に顧客や商品)の重複・不備をチェックする業務をルーティン化する。
(2) データの「オーナーシップ」を明確にする
「誰がそのデータをきれいにする責任を持つのか」というオーナーシップ(所有権)を明確に定義します。
- 商品データ: PIM担当部門(マーケティングや商品企画)
- 顧客データ: 営業企画部門やCRM運用部門
- 会計データ: 経理部門
責任者が不明確だと、問題が発生しても誰も対応しない「責任のなすりつけ合い」が発生します。責任部門が自部門のデータを常にクリーンに保つ意識を持つことが、システムの健全な運用に繋がります。
まとめ:データの品質がシステムの真価を決める
システム導入プロジェクトの成功は、「Go Live(稼働開始)」ではなく、「そのシステムがクリーンなデータに基づき、安定的に価値を生み出し続けているか」で測られます。
データクレンジングとマスター整備は、地道で目立ちにくい作業ですが、これなくしてはERPもCRMもただの「高価な入力装置」で終わってしまいます。
クリーンなデータ基盤を構築し、それを維持管理する体制こそが、企業のDXを成功へと導く鍵となります。