この記事では、日本産機新聞に掲載されている機械工具上場商社11社のEC化動向について解説します。
機械器具卸商 21世紀の生き残り戦略
この記事では、大阪機械器具卸商協同組合の創立100周年記念誌の若経営者座談会から見える「機械器具卸商 21世紀の生き残り戦略」をご紹介します。
大阪機械器具卸商協同組合とは
大阪機械器具卸商協同組合は、大阪府内に本社や拠点を持つ「機械器具・工具の販売業者(卸・販売店)」で構成される業界団体(協同組合)です。母体は1913年(大正2年)設立の「大阪機械商互親会」で、100年以上の歴史があります。
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目的:組合員の相互扶助にもとづき、必要な共同事業を行って、組合員の自主的な経済活動を促進し、経済的地位の向上を図るというのが公式の目的です。
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主な活動イメージ:
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共同事業(仕入・情報・標準化・広報など)の推進
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講演会・見学会・展示会等、教育研修や交流の場の提供(公式サイトのメニューにも「イベント・見学会」が見えます)
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メーカーと販売側(卸・販売店)をつなぐハブとしての情報共有
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若経営者座談会
2013(平成 25)年 9 月 9 日(月)に「未来につなぐ 業界の誇りと希望」というテーマで、以下参加者で行われた座談会です。
- 衣斐剛氏、丸一切削工具株式会社取締役西部ブロック長
- 平井泰彦氏、河田機工株式会社代表取締役社長
- 清水善徳氏、シミヅ産業株式会社代表取締役社長
- 山下敦史氏、旭商工株式会社代表取締役社長
- 杉原隆史氏、杉原計器株式会社代表取締役社長
- 横山欽一氏、大徳機工株式会社代表取締役社長
- 田中健一氏、喜一工具株式会社代表取締役社長
- 牛田幸吉氏、原口機工株式会社代表取締役社長
- 渡辺喜弘氏、森一産業株式会社代表取締役社長
工具卸商を取り巻く環境
マクロ環境の変化
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グローバル化・情報化の急伸:生産の海外移転が進み、国内の“モノづくり市場”のパイは縮小。為替・商習慣の違いにも直面。
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需要の質的変化:在庫・デリバリーへの要求水準が上がり、異業種(大手物流・IT)が付加価値を添えて流通領域へ参入。
競争構造の変化
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価格競争の常態化:利益確保が難しく、キャンペーンもマンネリ化・過剰化。価値が価格に転嫁されにくい。
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メーカーの直販・販売部門の強化:チャネルが多様化し、「卸・販売店不要」論への懸念。国内→海外でチャネル方針が分断されるケースも。
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EC・カタログ通販の台頭:MonotaRO/MISUMI/Yahoo等の拡大で、汎用品はネット購入へシフト。ネット同士の価格競争も加速。
流通の役割への揺らぎと再定義ニーズ
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情報仲介の難度上昇:ユーザー情報が商社を介すため“ワンクッション”となり、深い現場知をメーカーに還流しにくい。
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現場起点の“生きた情報”の価値:直需店は現場に入れる強みがあるが、共有・制度化が不十分。
組織・オペレーション面
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IT投資のコスト負担:受発注・在庫可視化などは不可避な一方で費用増。自社独自システムの構築を始める企業も。
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営業の稼働圧迫:配達・電話対応に追われ提案時間が不足。配達内製化で効率を上げた事例も。
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海外取引の増加:梱包・書類の手間増。文化差・為替での苦労はあるが、成果の兆しも。
人材・承継
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若手経営者の危機感と学習志向:財務強化・現場主義・理念浸透・人材育成を重視。先代は“アドバイザー”かつ大きな存在。
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人材要件の変化:語学・IT・提案営業など、従来以上に“複合スキル”が求められる。
10年スパンの産業像
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淘汰とM&Aの進行:廃業や再編が進む見立て。生き残り割合は「6~9割」まで見方が割れるが、危機感は共通。
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PB・製造機能の台頭:卸がPBを持ち、メーカー機能と商社機能を兼ねるプレイヤー増。
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「適応力」重視:市場・顧客・技術に対し“カメレオン的”に変化できる体質が鍵。
機械器具卸商 21世紀の生き残り戦略
「価格以外」で選ばれる価値創出
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提案営業の標準化・制度化
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月次で提案テーマを収集・共有、若手に宿題と目標値を付け実行。
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省エネ・加工改善など“成果指標”を伴うテーマ設定で受注率を高める。
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現場・用途に即した“使い分け提案”
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メーカー横断で特長・納期・価格を比較し、最適解を提示(直需店の強みを可視化)。
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サービス/情報の付加
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単なる配達・調達代行から、加工条件・コーティング・再研磨・工程短縮など“収益性の高い周辺サービス”へ拡張。
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「届けるコストと時間」を見える化し、対価を正当に主張。
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メーカーとの“攻守連携”の再設計
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三位一体の市場攻略
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メーカー・卸・販売店で同行訪問・展示会共同出展を増やし、開発背景・狙いシェア・差別化ポイントをユーザーへ直接伝達。
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チャネル方針の透明化
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国内外一貫の流通ポリシー(直販と間接の役割分担)をトップ〜現場まで明文化要請。
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キャンペーンの再構築
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ノベルティ依存を脱し、導入・活用・成果まで支援する“成功報酬型”“導入伴走型”施策へ。
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EC・ITの「守り」から「攻め」へ
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ハイブリッド販売モデル
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業務用EC(自社/モール)を汎用品の獲得装置に、対面は非汎用品・高付加に集中。
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ネットの“想定外の売れ筋”を商品企画・在庫戦略にフィードバック。
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自社システムの価値化
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価格帯・在庫量の可視化、共通受発注コード(業界標準化)と連携し、顧客の発注生産性を向上。
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既存客の囲い込みSaaS的機能(見積・履歴・代替提案・納期通知)を段階実装。
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データ活用
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受注/検索/閲覧ログを用い、推奨・代替提示・在庫適正化を回す“中規模DWH”を構築。
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PB・製造機能の強化
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PB開発の内製化とスピード
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設計・製造の内製比率を上げ、ブランド(例:「THE CUT」)を拡販。
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切削の“深い専門人材”を育成し、加工課題→工具設計→実証→SKU化を反復。
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共同開発(ユーザー共創)
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重要顧客の工程課題をテーマに準受託開発を実施、納入後はEC/カタログで汎用SKU化。
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海外展開の実装(選択と集中)
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既存顧客の海外工場フォロー
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国内での実績SKUを現地供給、納入・代替・保守の責任範囲を明確化。
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言語・通関・商流標準の整備
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英語運用の標準化、梱包・書類テンプレート化、インコタームズ/支払条件の社内標準。
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テーマを持った進出
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“価格勝負”でなく、加工ノウハウ/省エネ/保全など“テーマ付”で差別化。
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組織能力:人と仕組み
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人材育成(キーワード=人材)
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語学・IT・加工知見・原価/収益設計までのフルスタック営業育成。
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提案会議・現場OJT・展示会運用・メーカー研修の体系化。
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営業稼働の再配分
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配達・内勤化で営業の提案時間を創出。インサイドセールス/CSで分業。
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財務と働きがい
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無借金志向やインフラ整備で経営体力を強化。「良い会社」体験(評価・報酬・文化行事)で定着を高める。
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業界横断アクション
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標準化の推進
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共通受発注コードの早期実装・普及で業界全体の取引コストを削減。
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M&A/連携の前提整備
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在庫共同化、IT共有、バックオフィスBPOなど規模の経済を享受。
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レピュテーションの再設計
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「三方良し」「必要なモノを必要な価値で売る」原則を業界で共有し、価格だけでない評価軸を浸透。
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まとめ
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差別化軸:①提案営業(成果起点)②PB/製造機能③テーマ型海外④IT×データの顧客生産性⑤在庫・納期の確実性。
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運用原理:メーカー・卸・販売店の三位一体/チャネル方針の透明化/標準化と共通基盤。
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組織条件:人材(語学・IT・加工・収益)× 制度(分業・会議・教育)× 財務(投資・耐久力)。
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姿勢:価格競争に飲まれず、“カメレオンのような適応力”で事業を継続的に作り替える。
この座談会の本質は、「卸は“ただ運ぶ人”ではなく、情報と技術で工程価値を上げる産業に再定義される」という宣言です。ネットが汎用品を呑み込むほど、“現場×設計×データ”を束ねる人間の仕事が価値を持ちます。彼らの提案は、その価値を仕組み化する具体策の集合でした。