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工具卸の紙カタログの歴史と未来

 

この記事では、工具卸の紙カタログがいかに生まれ発展してきたか、そして今後どう進化していくのかについて、解説します。

1. 紙カタログが産業の神経網だった時代

戦後から高度経済成長期にかけて、日本の町工場・設備業者・建設現場にとって最大の課題は「何がどこで買えるのか」を知ることだった。

インターネットのない時代、工具卸商が発行する紙カタログこそが、“ものづくりの情報インフラ”であり、全国の現場とメーカーをつなぐ流通の神経網だった。

FAXや電話による注文が主流だった1970〜90年代、紙カタログは単なる販促物ではなく、「現場の辞書」「発注端末」として、工場や事務所の棚に常備された。

2. ESCO「便利カタログ」──紙カタログ文化の原点

1972年(昭和47年)頃、エスコ(ESCO)が創刊した『ESCO便利カタログ』は、日本の工具カタログ史における最古の存在とされる。

当時のESCOは大阪を拠点とする輸入工具商社で、欧米の便利ツールや特殊治具をいち早く国内に紹介。

国内メーカーがまだ取り扱っていなかった「痒いところに手が届くツール」**を写真付きで紹介するこのカタログは、技術者の間で評判を呼び、「便利カタログ」という名称が定着した。

ESCOの功績は、“工具を体系的に見せる”文化を日本で最初に確立したことにある。その精神は今も続く『ESCO便利カタログ』に息づいており、50年以上にわたり現場の創意工夫を支えてきた。

3. トラスコ中山「オレンジブック」──業界標準の確立

1978年(昭和53年)、トラスコ中山株式会社が発行した『オレンジブック』は、業界に“標準化”をもたらした。
ESCOが個性と発想のカタログだったのに対し、トラスコは「全メーカー・全型番を体系的に整理する」という構想を打ち出した。

全国の販売店・工場が同じ型番で同じ仕様を共有できるようになり、FAXや電話注文の効率が飛躍的に向上した。

以後、オレンジブックは毎年改訂され、20万点以上の総合カタログとして、「日本の工具業界の共通言語」となった。

現在はWeb版「オレンジブック.Com」に姿を変え、デジタルカタログとしてその思想を継承している。

4. 専門卸が築いた多様なカタログ文化

全国の工具卸もそれぞれ独自のカタログを発行し、地域の現場を支えた。代表的なものとして以下が挙げられる。

  • ユアサ商事『ユアサ総合カタログ』:建設・住設・機械を一体で扱う総合卸モデル。
  • ミスミ『FAカタログ』:設計者向けの標準部品寸法カタログとして、後のEC化の原型を作った。

5. モノタロウの登場──“紙×FAX”から始まったデジタル革命

2000年に創業したMonotaRO(モノタロウ)も、初期は今のようなEC専業ではなく、「紙カタログ+FAX受注」が主流だった。

創業当初の顧客層(町工場・設備業者)はまだインターネット利用が限られており、オレンジブックやESCOの購買習慣を踏まえて、紙媒体を窓口にした“ハイブリッド通販”としてスタートした。

後に、カタログ掲載商品がオンラインで検索・注文できるようになり、「紙の使いやすさ」と「デジタルの利便性」を融合した新しい流通モデルを生み出した点で、モノタロウは紙カタログ文化の延長線上にある存在といえる。

6. 通販系オフィスカタログの広がり

工具業界以外でも、紙カタログ×FAX/電話受注のスタイルはオフィス用品の世界で大きく花開いた。

  • PLUS『ジョインテックスカタログ』:文具・事務用品からオフィス家具まで幅広く網羅。
  • アスクル『ASKULカタログ』:1993年創刊。「明日来る」というコンセプトとともにFAX注文で急成長。
  • 大塚商会『たのめーる』:法人向けのIT・オフィス用品を扱い、カタログとWebの両立を徹底。

これらの通販系カタログは、トラスコやESCOのように“業界標準マスター”ではないが、「発注業務を簡略化する」という思想で共通しており、紙カタログ文化をビジネスインフラへと昇華させた。

7. FAX注文の減少とWeb受発注の増加

モノタロウ 2025年12月期第2四半期決算説明資料によれば、FAXによる受注は2003年時点では70%近くを占めていた一方、近年では1%程度まで減少している。その反面、Webを介した受発注がメインストリームとなっている。

モノタロウ受注方式

8. 紙からデジタルへ──思想の継承

21世紀に入り、カタログはPDF、デジタルカタログ、Webサイトへと姿を変えた。
しかしその根底にある思想――「現場の人が正確な情報にすぐアクセスできるようにする」という理念は、ESCO・トラスコ・モノタロウ・アスクルの全てに共通する。

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