この記事では、大阪機械器具卸商協同組合の創立100周年記念誌の若経営者座談会から見える「機械器具卸商 21世紀の生き残り戦略」をご紹介します。
大阪機械器具卸商協同組合は、大阪府内に本社や拠点を持つ「機械器具・工具の販売業者(卸・販売店)」で構成される業界団体(協同組合)です。母体は1913年(大正2年)設立の「大阪機械商互親会」で、100年以上の歴史があります。
目的:組合員の相互扶助にもとづき、必要な共同事業を行って、組合員の自主的な経済活動を促進し、経済的地位の向上を図るというのが公式の目的です。
主な活動イメージ:
共同事業(仕入・情報・標準化・広報など)の推進
講演会・見学会・展示会等、教育研修や交流の場の提供(公式サイトのメニューにも「イベント・見学会」が見えます)
メーカーと販売側(卸・販売店)をつなぐハブとしての情報共有
2013(平成 25)年 9 月 9 日(月)に「未来につなぐ 業界の誇りと希望」というテーマで、以下参加者で行われた座談会です。
グローバル化・情報化の急伸:生産の海外移転が進み、国内の“モノづくり市場”のパイは縮小。為替・商習慣の違いにも直面。
需要の質的変化:在庫・デリバリーへの要求水準が上がり、異業種(大手物流・IT)が付加価値を添えて流通領域へ参入。
価格競争の常態化:利益確保が難しく、キャンペーンもマンネリ化・過剰化。価値が価格に転嫁されにくい。
メーカーの直販・販売部門の強化:チャネルが多様化し、「卸・販売店不要」論への懸念。国内→海外でチャネル方針が分断されるケースも。
EC・カタログ通販の台頭:MonotaRO/MISUMI/Yahoo等の拡大で、汎用品はネット購入へシフト。ネット同士の価格競争も加速。
情報仲介の難度上昇:ユーザー情報が商社を介すため“ワンクッション”となり、深い現場知をメーカーに還流しにくい。
現場起点の“生きた情報”の価値:直需店は現場に入れる強みがあるが、共有・制度化が不十分。
IT投資のコスト負担:受発注・在庫可視化などは不可避な一方で費用増。自社独自システムの構築を始める企業も。
営業の稼働圧迫:配達・電話対応に追われ提案時間が不足。配達内製化で効率を上げた事例も。
海外取引の増加:梱包・書類の手間増。文化差・為替での苦労はあるが、成果の兆しも。
若手経営者の危機感と学習志向:財務強化・現場主義・理念浸透・人材育成を重視。先代は“アドバイザー”かつ大きな存在。
人材要件の変化:語学・IT・提案営業など、従来以上に“複合スキル”が求められる。
淘汰とM&Aの進行:廃業や再編が進む見立て。生き残り割合は「6~9割」まで見方が割れるが、危機感は共通。
PB・製造機能の台頭:卸がPBを持ち、メーカー機能と商社機能を兼ねるプレイヤー増。
「適応力」重視:市場・顧客・技術に対し“カメレオン的”に変化できる体質が鍵。
月次で提案テーマを収集・共有、若手に宿題と目標値を付け実行。
省エネ・加工改善など“成果指標”を伴うテーマ設定で受注率を高める。
メーカー横断で特長・納期・価格を比較し、最適解を提示(直需店の強みを可視化)。
単なる配達・調達代行から、加工条件・コーティング・再研磨・工程短縮など“収益性の高い周辺サービス”へ拡張。
「届けるコストと時間」を見える化し、対価を正当に主張。
メーカー・卸・販売店で同行訪問・展示会共同出展を増やし、開発背景・狙いシェア・差別化ポイントをユーザーへ直接伝達。
国内外一貫の流通ポリシー(直販と間接の役割分担)をトップ〜現場まで明文化要請。
ノベルティ依存を脱し、導入・活用・成果まで支援する“成功報酬型”“導入伴走型”施策へ。
業務用EC(自社/モール)を汎用品の獲得装置に、対面は非汎用品・高付加に集中。
ネットの“想定外の売れ筋”を商品企画・在庫戦略にフィードバック。
価格帯・在庫量の可視化、共通受発注コード(業界標準化)と連携し、顧客の発注生産性を向上。
既存客の囲い込みSaaS的機能(見積・履歴・代替提案・納期通知)を段階実装。
受注/検索/閲覧ログを用い、推奨・代替提示・在庫適正化を回す“中規模DWH”を構築。
設計・製造の内製比率を上げ、ブランド(例:「THE CUT」)を拡販。
切削の“深い専門人材”を育成し、加工課題→工具設計→実証→SKU化を反復。
重要顧客の工程課題をテーマに準受託開発を実施、納入後はEC/カタログで汎用SKU化。
国内での実績SKUを現地供給、納入・代替・保守の責任範囲を明確化。
英語運用の標準化、梱包・書類テンプレート化、インコタームズ/支払条件の社内標準。
“価格勝負”でなく、加工ノウハウ/省エネ/保全など“テーマ付”で差別化。
語学・IT・加工知見・原価/収益設計までのフルスタック営業育成。
提案会議・現場OJT・展示会運用・メーカー研修の体系化。
配達・内勤化で営業の提案時間を創出。インサイドセールス/CSで分業。
無借金志向やインフラ整備で経営体力を強化。「良い会社」体験(評価・報酬・文化行事)で定着を高める。
共通受発注コードの早期実装・普及で業界全体の取引コストを削減。
在庫共同化、IT共有、バックオフィスBPOなど規模の経済を享受。
「三方良し」「必要なモノを必要な価値で売る」原則を業界で共有し、価格だけでない評価軸を浸透。
差別化軸:①提案営業(成果起点)②PB/製造機能③テーマ型海外④IT×データの顧客生産性⑤在庫・納期の確実性。
運用原理:メーカー・卸・販売店の三位一体/チャネル方針の透明化/標準化と共通基盤。
組織条件:人材(語学・IT・加工・収益)× 制度(分業・会議・教育)× 財務(投資・耐久力)。
姿勢:価格競争に飲まれず、“カメレオンのような適応力”で事業を継続的に作り替える。
この座談会の本質は、「卸は“ただ運ぶ人”ではなく、情報と技術で工程価値を上げる産業に再定義される」という宣言です。ネットが汎用品を呑み込むほど、“現場×設計×データ”を束ねる人間の仕事が価値を持ちます。彼らの提案は、その価値を仕組み化する具体策の集合でした。