総務省の「令和7年版 情報通信白書」に収録されている「AIの爆発的な進展の動向」の章は、生成AIを中心とする最新のAI技術開発の現状、国際的な競争、そして日本における個人・企業での利用実態と今後の課題を詳細に分析したものです。本記事では、このレポートの核心部分を分かりやすく解説します。
1.世界のAI開発競争の激化と最新動向
AI、特に文章や画像などを生成する生成AI(generative AI)と、その技術である大規模言語モデル(LLM)は爆発的な進化を続けています。
大規模モデルの開発競争
- スケーリング則の提唱(OpenAI、2020年)以降、学習データ規模やパラメータ数を増やすことで性能を向上させる競争が激化し、GPT-3の1,750億パラメータから、GoogleのPaLM(5,400億パラメータ)など、モデルの大規模化が進んでいます。
- この開発競争は、海外のいわゆるビッグテック企業や、OpenAI、Anthropicなどの巨額な投資を受けた海外スタートアップ企業が主導しています。
技術的な新たな潮流
- 推論モデルの登場: OpenAIの「OpenAI ol」シリーズなど、科学や数学、コード生成といった従来の生成AIが苦手とした分野で高い成績を出す難解な問題を解決するAIモデルが開発されています。
- 低コスト・高性能なモデル: 中国のスタートアップ企業DeepSeekが開発した「DeepSeek-R1」は、米OpenAIの推論モデルと同等の性能を持ちながら、開発コストが大幅に低いことで注目を集めました。これは、高性能モデルの開発には巨額投資が必要という従来の通説に疑問を呈しています。
- 小規模モデル(SLM)の進化: パラメータ数が少なく軽量で高速処理が可能な「Phi」シリーズ(Microsoft)など、ローカル環境や特定用途での優位性を持つ小規模なモデルの開発にも注目が集まっています。
2. AIの応用:AIエージェントとAIロボティクス
LLMの進化は、AIをより複雑なタスクに応用する分野を加速させています。
AIエージェント
- AIエージェントとは、設定された目標や自然言語での指示に対し、自動的にタスクを決定し(必要に応じて細分化)、処理を実行する機能を持つシステムです。
- Microsoft、Salesforce、OpenAI、Anthropicなど、多くの企業がAIエージェントサービスを開発・展開しています。これらは、通訳やファシリテーター、顧客対応、さらには人の代わりにパソコンを操作する機能(Anthropic)など、複雑な業務を代行・支援することを目指しています。
AIロボティクス
- 画像認識や自然言語処理の進化により、AI技術をロボット分野に応用する開発・投資競争が過熱しています。背景には、少子高齢化による労働力不足の代替への期待があります。
- 特に、人間を中心に設計された社会インフラに導入しやすい人型ロボット(ヒューマノイド)の開発が活発化しており、Tesla(Optimus)やFigure AIなどが商用化を目指し、製造現場での試験導入や、将来的には家事・娯楽など日常生活での活用を見据えています。
3. 日本のAI開発と利用の現状
AIの研究開発力や活用において、日本はAI活力ランキングで総合9位(2023年)と、米国や中国などに水をあけられている状況です 。しかし、国内の企業・組織による開発も進んでいます。
日本のLLM開発
- 東京科学大学・富士通・理化学研究所などによるFugaku-LLM(スーパーコンピューター「富岳」で学習)や、PFNグループのPLaMo-100B(高い日本語性能)など、日本語の性能向上に特化したLLMの開発事例が見られます。
- 経済産業省の「GENIAC」プロジェクトや総務省による日本語学習用データの整備・拡充など、国による開発支援も行われています。
個人・企業のAI利用実態
- 個人の生成AI利用経験:日本で「使っている(過去使ったことがある)」と回答した割合は26.7%(2024年度調査)で、2023年度(9.1%)から増加しましたが 、米国(68.8%)や中国(81.2%)と比較すると低い水準にとどまっています。
- 利用しない理由: 日本では「自分の生活や業務に必要ない」に次いで「使い方がわからない」が利用しない理由として高く、利用のハードルが高いことがうかがえます。
- 企業の方針決定: 日本企業で生成AIの活用方針を「積極的に活用する」または「領域を限定して利用する」と定めている企業の比率は49.7%で、他国より低い傾向にあり、特に中小企業では約半数が「方針を明確に定めていない」と回答しています。
- 企業の活用業務: 日本企業で生成AIを利用している割合は55.2%ですが、米国や中国と比べると低いです。
企業の主な懸念と期待
- 懸念事項: 日本企業が生成AI導入に際して最も懸念しているのは「効果的な活用方法がわからない」であり、次いで「社内情報の漏洩などのセキュリティリスク」「ランニングコスト」が挙げられています。
- ポジティブな影響: 日本企業は生成AIの活用推進による自社への影響として、「業務効率化や人員不足の解消につながる」ことを最も多く挙げています 。他の国は「ビジネスの拡大や新たな顧客獲得」や「新たなイノベーション」を多く挙げる傾向にあり、日本は依然としてAIを「効率化」の視点で捉える傾向が強いことが示唆されます。
まとめ
AI技術は推論モデルやAIエージェント、人型ロボットなど、応用範囲が爆発的に拡大しています。世界的に開発競争が激化し、日本もLLM開発などで取り組みを進めていますが、AI活力ランキングの低さや、個人・企業における活用経験の低さ、そして中小企業での活用方針決定の遅れが課題です。
日本が国際的な競争力を維持し、AIを社会基盤として最大限活用するためには、日本語LLMの開発支援の継続に加え、AIリテラシーの向上、そして企業がAIを単なる効率化ツールとしてだけでなく、ビジネスモデルの変革やイノベーション創出の手段として捉える視点の転換が求められます。
メーカー・卸のAI活用をしたDX推進ならmonolyst
monolystは製造業向けAIセールスプラットフォームで、AIを活用したカタログ解析と商品マスタ自動作成、FAX受注の効率化、Web受発注や通販の推進などにより売上拡大に貢献いたします。DX推進ご担当の方は、ぜひ一度、お問い合わせください。