この記事では、商工中金「中小企業の海外進出・輸出に関する調査」に見る課題と今後の戦略について、解説します。
本調査は、商工中金が2025年1月に全国の取引先中小企業4,384社を対象に実施したもので、国内設備投資動向調査の付帯として行われた。回答企業のうち製造業は32.1%、非製造業は67.9%を占め、地域別では関東・近畿・東海に集中する。従業員規模は30人以下が約半数を占めるなど、小規模事業者が中心である。回答方法は郵送とWEBで実施され、回収率は43.6%。
この結果は、日本の中小企業の海外展開や輸出の「現実的な姿」を反映しており、前回2018年調査との比較により、海外志向の変化や課題の深化を示すデータとなっている。
海外進出・海外事業を行う企業の割合は、前回調査(2018年)の11.3%から8.9%へと低下した。特に「今後の進出予定なし」と回答した企業は77.2%と大幅に増加しており、国内市場に軸足を置く姿勢が強まっていることが分かる。背景には円安によるコスト高、現地人件費の上昇、国際情勢の不安定化などがあり、「無理な進出」から「堅実な国内維持」への転換が見られる。
製造業では特に減少幅が大きく、鉄・非鉄分野では進出実績ありの比率が10.2%まで低下した。一方でサービス業など一部では、海外展開を続ける企業も見られ、分野による温度差が浮き彫りとなった。
海外進出の最大の理由は「海外市場の拡大が期待できるため」(39.5%)で、依然として新規市場開拓への期待が強い。しかし、「安い人件費を活用したコストダウン」は19.0%に低下し、前回調査の31.7%から12.7ポイント減少した。かつての「低コスト生産地としての海外」から、「成長市場としての海外」へと意識が転換している。
また「国内市場の縮小への懸念」や「取引先企業の海外展開への追随」も依然上位にあり、日本市場の成熟化が海外展開の背中を押す構図となっている。為替リスク回避やサプライチェーン分散など、地政学的視点も新たに浮上している点が特徴的だ。
進出先として依然最多は中国(51.5%)だが、2015年から10ポイント低下した。一方、ベトナムは15.2%から23.4%へ上昇し、「ポスト中国」としての地位を確立しつつある。進出予定先としてもベトナムが29.9%で首位に立ち、続いてインドネシア(20.1%)、台湾・米国(各18.6%)が続く。
中国への新規進出予定は11.3%にとどまり、製造拠点の多極化が進行している。背景には、中国の人件費上昇やリスク分散志向があり、「チャイナ・プラスワン」から「マルチ・プラスワン」への流れが明確だ。今後は東南アジアと米国を軸としたハイブリッド戦略が主流になるだろう。
海外進出後の事業状況では、「順調に推移している」「順調とはいえない」の割合が増加し、「概ね順調」が減少した。つまり、成果を上げる企業と苦戦する企業の差が拡大している。今後の方針でも、「拡大」「現状維持」は微減し、「縮小」「撤退」が増加。ベトナム・中国などでは現地運営コストや為替リスクが重くのしかかる。
一方で、米国進出企業では「順調」比率が増加しており、付加価値型製品での競争力維持が奏功していると考えられる。全体として、中小企業の海外事業は「選択と集中」の段階に入り、持続的な成長モデルの確立が急務である。
海外進出・海外事業を行う企業の最大の課題は「リーダー人材の確保」(38.7%)であり、続いて「法規制やビジネス習慣への対応」(31.4%)、「品質管理」(31.4%)が挙がる。進出を検討している企業では「現地マーケット情報の収集」(53.1%)が最も高く、情報とネットワークの不足が参入障壁となっている。
特に小規模企業では、現地パートナー開拓(45.7%)など実務的な支援を求める声が強い。海外事業成功には、単なる資金援助ではなく、人材育成・マッチング・情報支援など、包括的なサポート体制が不可欠であることが明確に示された。
輸出を行っている企業は全体の14.4%で、製造業では27.0%、非製造業では8.4%と大きな差がある。特に食料品、機械、電気機器業種での輸出比率が高く、間接輸出の活用も目立つ。
一方、「今後輸出を検討」「関心がある」と回答した企業は9.3%で、潜在的な関心層は一定数存在する。非製造業では卸売業の23.7%が輸出を行っており、国内取引網を生かした越境ビジネスの拡大余地も大きい。全体として、輸出活動は限定的ながらも、「国内需要縮小への対応策」として注目度を高めている。
輸出企業が外部機関に期待する支援は、「現地マーケット情報提供」(34.1%)、「現地パートナーとのマッチング」(30.0%)、「貿易・為替リスク相談」(28.6%)が上位に挙がる。輸出未経験企業では「戦略立案・進め方相談」へのニーズが高い。
また、従業員規模別では、大企業ほど「人材育成支援」、小規模企業ほど「商社・EC事業者との連携支援」を求めている。現場の自由記述では「マッチング支援」「資金サポート」「為替リスクヘッジ」「海外情報提供」への要望が多く、総合的な支援体制が求められている。
回答企業からは「円安を追い風に再度輸出に挑戦したい」「大手商社との連携強化で販路拡大を狙う」など、前向きな意見が寄せられた一方で、「現地人件費の上昇」「嗜好対応コスト」「為替変動リスク」への懸念も多い。特に食料品など消費者向け分野では、現地嗜好への対応や商品開発の難しさを指摘する声が目立つ。
輸出・進出の両面で、「人材」「情報」「資金」の三点が共通課題として浮上しており、支援機関への期待も高い。現場は挑戦意欲と慎重さの両方を抱えながら、次の一手を模索している。
本調査は、日本の中小企業が「海外進出の停滞期」にありながらも、新たな局面を迎えていることを示している。かつての低コスト生産目的から脱し、今や成長市場へのアクセス、ブランド価値の創出、そしてリスク分散が主要テーマだ。
国内需要の縮小が続くなか、輸出と現地展開を組み合わせた「二層型グローバル化」が今後の鍵を握る。特に情報・人材・パートナー支援を一体化した地域金融機関の役割が重要であり、中小企業が「守り」から「攻め」に転じるための仕組みづくりが求められている。
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