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内閣府「中小企業の輸出拡大に向けた課題」レポート解説

作成者: Yosuke Iseki|25/10/22 6:22

この記事では、内閣府 令和5年度年次経済財政報告の「中小企業の輸出拡大に向けた課題」レポートについて、解説します。

1. はじめに:中小企業の輸出拡大がもたらす意味

日本経済において中小企業は事業所数の約85%、雇用の6割を担い、地域経済と雇用の安定に欠かせない存在である。しかし、付加価値の創出面では全体の5割に満たず、生産性向上が長年の課題とされてきた。こうした中で、外需の取り込み——すなわち輸出拡大——は中小企業の付加価値向上と所得増加を実現する重要な手段として位置づけられる。

本レポートでは、輸出開始による経済効果と、中小企業が直面する課題を多角的に分析し、輸出拡大を通じた成長モデルを提示している。

2. 中小企業の現状:生産性と付加価値の格差

製造業・非製造業ともに、大企業に比べて中小企業の労働生産性は低く、特に製造業でその差が顕著である。従業員数ベースでは6割以上を占めながらも、付加価値シェアは5割に届かない。資金・人材・情報といった経営資源の制約が背景にあり、研究開発や設備投資も大企業に比べて著しく少ない。

結果として、一人当たりの賃金水準も大企業の7割(非製造業)から5割(製造業)程度にとどまる。生産性格差の是正なくして、雇用全体の賃上げや地域経済の持続的成長は困難であり、輸出による外需獲得がこの格差を埋める契機となりうる。

3. 輸出企業割合と国際比較:日本中小企業の「稼ぐ力」

中小企業の輸出企業割合は2011年度の19.7%から2020年度に21.2%へとわずかに上昇したが、大企業との差は広がっている。輸出金額に占める中小企業の比率はわずか7%に過ぎず、「数は多いが規模は小さい」構造が続く。

OECD諸国と比較しても、日本では大企業と中小企業の輸出比率格差が25.2ポイントと突出しており、外需獲得力の弱さが顕著である。こうした構造的な輸出格差は、日本の中小製造業が海外展開や販路拡大を進めるうえでの大きなボトルネックとなっている。

4. 自由貿易協定(FTA/EPA)の進展と利用状況

CPTPP、日EU・EPA、RCEPなど自由貿易協定の進展により、日本の輸出総額の約8割が締結国との取引となった。しかし、恩恵を十分に享受しているのは主に大企業であり、FTAの利用率は大企業73.8%に対し中小企業57.5%と低い。制度を「知らない」「手続きが複雑」という理由で活用できていないケースが多い。

他方、関心層は約2割存在しており、制度周知と支援体制の強化によって、さらなる輸出活性化が期待される。

5. 輸出開始による「学習効果」と生産性の時間差

輸出開始は売上向上だけでなく、生産性を高める“学習効果(learning-by-export)”をもたらす。大企業では輸出開始から1〜2年で有意な生産性改善が見られる一方、中小企業では5〜6年かけて徐々に向上する傾向が明らかになった。

背景には、研究開発投資や人員・資金の制約があり、輸出初期にはコスト増が先行する構造がある。したがって、中小企業が輸出を軌道に乗せるまでの中期的な金融支援や専門機関による伴走支援が不可欠とされる。

6. 輸出商材の変化と越境ECの可能性

輸出商材は近年、部品・資本財から消費財へとシフトしている。消費財を輸出したい企業の割合が増え、越境ECが有力な販路となっている。特に中小企業では、自社サイトを通じたEC取引が中心で、ECモール利用は限定的だが、現地顧客への直接販売のハードルを下げる効果が大きい。

政府は「新規輸出1万者支援プログラム」を通じて、JETRO連携による海外EC展開支援を強化しており、SNSによる低コストのプロモーションと組み合わせることで、地方中小企業の新たな輸出チャネル拡大が期待される。

7. 人材・ノウハウ不足という輸出の壁

輸出に関心がありながら実行できない企業の最大の課題は「人材の確保」である。特に、現地法規制や商習慣、貿易実務への理解を持つ“グローバル人材”の不足が深刻である。

また、経営者自身に海外留学や修学経験がある場合、輸出実績を持つ割合が高いことからも、経営レベルでの国際知見が鍵となる。政府は専門家派遣や中小機構・JETROによる計画策定支援を進めているが、民間側でもフリーランス通訳・貿易実務人材などの育成が重要になる。

8. 技術力・ブランド力と輸出成功の関係

輸出成功企業は「価格競争力」よりも「技術力・開発力」「ブランド力」を自社の強みとして挙げる割合が高い。統計的にも、研究開発活動を行う企業ほど輸出実施確率が有意に高く、脱炭素対応も同様の傾向を示す。

一方、価格競争力に依存する企業は輸出確率が低い。これは外需獲得にはコスト削減よりも高付加価値化が鍵であることを示唆する。適正な価格転嫁とイノベーション投資により、サプライチェーン全体で付加価値を高める戦略が求められる。

9. 公的支援の活用と課題:制度認知の低さ

輸出を継続する企業は撤退企業よりも公的機関(JETRO、政府系金融機関等)を利用している割合が高く、公的支援が輸出定着を後押ししている。

しかし、輸出に関心を持つ企業のうち「支援メニューを知らない」(61.8%)、「どこに連絡すればよいか分からない」(30.4%)といった認知不足が顕著である。制度周知・伴走支援・地域経済団体との連携を通じて、支援制度を中小企業に浸透させることが、今後の輸出拡大のカギとなる。

10. まとめ:外需獲得の好循環を生むために

レポートは、研究開発投資や人材育成などの無形資産投資を通じて中小企業の競争力を高めることが、輸出拡大と経済全体の好循環を生むと結論づけている。

技術力・ブランド力・人材力を強化し、公的支援を活用することで、価格競争に頼らない持続的な輸出構造を構築できる。官民が一体となって中小企業の外需獲得を支援することが、日本経済の新たな成長エンジンとなる。

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