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はじめてのWeb受発注システム

作成者: Yosuke Iseki|25/09/24 4:52

Web受発注システムの基本から導入メリット、選び方や注意点までを整理し、初めて導入する企業が効率化と顧客満足度向上を実現するためのポイントをわかりやすく解説します。

はじめに

なぜ今、Web受発注システムが注目されているのか

日本の労働生産性の低さ、人口減少に伴う労働力不足が叫ばれる中で、業務効率化、DXの重要性が高まっています。

従来の電話・FAX・メール受発注との違い

製造業やそれに関わる商社、卸、販売店では、FAXによる受注が6-7割を占めます。続いて、メール・電話が1-2割。業務効率化に取り組んでいる企業ではEDIやWeb受注が2-3割になります(弊社調べ)。

EDIは「Electronic Data Interchange(電子データ交換)」の略で、企業間で基幹システム同士を繋ぐことを指します。得意先の基幹システムにて発注処理を行うと、基本的には自動で自社の受注処理が走ります。EDIは個別に開発が必要となり、数百万円から場合によっては1000万円を超える費用がかかる場合があります。

Web受注ではWeb受発注システムを構築し、得意先にそのシステム経由で発注をしてもらいます。BtoB取引ではID、パスワードを用いたログインが必要なクローズドなシステムであることが多いです。

Web受発注システムとは?

基本的な仕組みと役割

Web受発注システムとは、インターネットを通じて商品やサービスの注文(受注・発注)をやり取りできる仕組みのことです。これまで紙の注文書やFAX、電話、メールなどで行っていたやり取りを、ブラウザや専用アプリ上で完結できるようにします。発注側は欲しい商品をオンラインカタログのように選んで注文を送信し、受注側はその内容を即時に確認・承認できるため、従来のやり取りに比べてスピードと正確さが大幅に向上します。

この仕組みの中心にあるのは「データの一元管理」です。注文情報、顧客情報、在庫情報などがシステム内で一括して記録されるため、どの担当者でもリアルタイムに状況を把握できます。結果として、入力ミスや伝達漏れといったトラブルを減らし、正確な受注・発注の流れをつくり出すことが可能になります。

役割としては大きく二つあります。ひとつは「取引の効率化」で、発注から納品までの流れをシンプルにし、人手による作業を減らすことです。もうひとつは「関係強化」で、顧客にとって使いやすい注文環境を提供することで満足度を高め、取引先との信頼関係を長期的に築く土台となります。

BtoBとBtoCにおける活用シーンの違い

BtoB取引においては、ID、パスワードでログイン可能なクローズドサイトであることが多く、特定の取引先との受発注ができます。一方、BtoCでは、オープンサイトで不特定の顧客と取引を行うことが期待されます。

BtoB取引がクローズドサイトで行われる背景としては、取引量や条件によって得意先ごとに掛け率、仕切価格が異なるため、Web受注サイトで価格を表示しないか、個社ごとの価格表示が必要となるためです。

導入のメリット

業務効率化(入力作業削減・二重入力防止)

Web受発注システムを導入する最大のメリットは、日々の業務を効率化できる点です。これまで電話やFAX、メールで受けた注文は、担当者が手作業でシステムに入力する必要がありました。

そのため、入力作業に時間がかかるだけでなく、二重入力や転記ミスのリスクも避けられませんでした。Web受発注システムでは、発注内容が自動的にデータとして登録されるため、担当者の入力作業は最小限に抑えられます。

その結果、空いた時間を営業活動や顧客対応など、より付加価値の高い業務に振り向けることができます。

ミスの削減とトレーサビリティ向上

手書きやFAXでのやり取りでは、文字が読みにくい、伝達が漏れるといったヒューマンエラーが発生しがちです。Web受発注システムを使えば、入力は標準化されたフォームで行われるため、誤解や記入漏れが起きにくくなります。

また、すべてのやり取りがデータとして残るため、「誰が・いつ・どの商品を注文したのか」を後から簡単に確認できます。これにより、トレーサビリティ(取引履歴の追跡性)が大幅に向上し、問題が発生した際の原因究明や対応スピードも早まります。

顧客満足度の向上(スピード・利便性)

発注側の顧客にとっても、Web受発注システムは大きな利便性をもたらします。従来のように営業時間内に電話やFAXを送る必要はなく、インターネット環境さえあれば24時間いつでも注文が可能です。

また、過去の注文履歴から簡単に再注文できたり、在庫状況をリアルタイムで確認できたりするため、顧客の利便性は大幅に高まります。

結果的に「取引しやすい会社」という印象が強まり、顧客との関係強化にもつながります。平日しか注文できないため、値段は高いがネット通販で購入した、などの顧客の取引離れを防ぐことができます。

データ蓄積による経営判断の精度向上

Web受発注システムは単なる取引の効率化ツールにとどまりません。すべての受発注データが蓄積されることで、どの商品がどの時期に多く売れているのか、どの顧客がリピートしているのかといった情報を簡単に分析できるようになります。

これにより、在庫の最適化や販売戦略の立案といった経営判断の精度が高まります。データドリブンな意思決定が可能になることは、企業の競争力強化に直結します。

導入の流れ

1. 現状業務の棚卸し

まず取り組むべきは、自社の受発注業務の現状把握です。どのような手段で注文を受けているのか、どの部門が関わっているのか、どの部分で時間や手間がかかっているのかを整理します。この段階で課題を明確にしておくことで、「システムで何を改善したいのか」という目的がはっきりし、導入効果を正しく測定できるようになります。

2. システム選定

次に、現状の課題を踏まえてシステムを選びます。候補となるサービスを比較する際は、必要な機能だけでなく、導入コスト、サポート体制、他システムとの連携性を確認することが重要です。例えば、自社の商品マスタや在庫管理システムとスムーズに連携できるかどうかは、運用面での負担を大きく左右します。また、将来的な拡張性も考慮すると安心です。

3. 社内展開・顧客への周知

システムを導入しただけでは業務は変わりません。実際に現場で使われるようにするためには、社内担当者への研修やマニュアル整備が欠かせません。

また、顧客がシステムを利用する場合は、ログイン方法や操作手順を分かりやすく案内し、利用開始をスムーズにする工夫が必要です。特に長年FAXや電話でやり取りしてきた顧客にとっては大きな変化となるため、丁寧な説明とフォローが成功のカギとなります。極力マニュアルなしでも理解可能な分かりやすく操作性の高い製品を選ぶことも実際の業務定着化においては重要となります。

4. 運用・改善サイクル

導入後は、定期的に利用状況を確認し、運用上の課題を改善していくことが重要です。例えば、「顧客が特定の画面で操作に戸惑っている」「社内の承認フローが複雑になっている」といった点を洗い出し、システム設定や運用ルールを見直していきます。この改善サイクルを回すことで、システムが現場に定着し、本来の効果を最大限に発揮できるようになります。

選ぶ際のポイント

使いやすさ(UI/UX)

システムの使いやすさは、導入効果を左右する大きな要素です。どれだけ高機能でも、現場担当者や顧客が直感的に操作できなければ定着しません。画面の見やすさや操作手順の分かりやすさを重視し、実際の利用シーンを想定して評価することが大切です。

自社商品マスタや在庫管理との連携性

受発注は単独で完結する業務ではなく、在庫管理や会計システムなど他の業務と密接につながっています。そのため、自社の商品マスタや在庫システムとスムーズに連携できるかどうかを確認する必要があります。CSVでのデータ取り込みやAPI連携の有無は、日々の運用負担を大きく変えます。商品マスタと一体となったメンテナンスしやすいweb受注システムを選択するのも一つの方法と言えます。

セキュリティ・アクセス権限管理

取引データには顧客情報や金額情報が含まれるため、セキュリティ対策は欠かせません。通信の暗号化、アクセス権限の細かい設定、ログ管理の仕組みなど、安心して運用できる体制が整っているかを確認しましょう。

将来の拡張性や外部システム連携

導入時は小さな範囲でスタートしても、利用が広がればより多くの取引先や部門での活用が求められることがあります。その際に柔軟に機能追加やユーザー数の拡張ができるシステムを選んでおくと、長期的な投資効果を得やすくなります。

導入時の注意点と課題

社内の抵抗感や顧客側の利用ハードル

新しいシステムの導入は、現場に「今までのやり方が変わる」ことへの抵抗感を生みがちです。特に長年FAXや電話で業務を回してきたスタッフにとっては負担に感じることもあるため、導入前に目的やメリットを丁寧に共有し、理解を得ることが重要です。

顧客側の利用ハードル

受発注は相手があって成り立つ業務です。システムを導入しても、顧客が利用してくれなければ意味がありません。顧客が簡単にアクセスできる仕組みや、利用開始時のサポート体制を整えることが成功のポイントです。

初期設定やデータ整備の負担

商品マスタや取引先情報を正しく整備しないと、システムがスムーズに動きません。特に品番・商品名・JANコードなどがバラバラの状態だと、導入時に大きな工数が発生します。事前にデータを整理しておくことが、スムーズな稼働につながります。

運用ルールの策定

システム導入後は、どの部門がどのように使うか、承認フローをどう回すかといった運用ルールを決める必要があります。ルールが曖昧なままだと、結局旧来の方法と併用されてしまい、効果が薄れてしまう可能性があります。

まとめ

Web受発注システムは、単なる業務のデジタル化にとどまらず、企業の競争力を高める大きな武器となります。電話やFAX中心の受発注では、どうしても人手による作業が多く、時間やコスト、ヒューマンエラーといった課題を抱えていました。これをWeb化することで、効率化・ミス削減・顧客満足度向上・データ活用といった多方面の効果を得ることができます。

もちろん導入には、社内外の理解や初期設定の負担といったハードルもあります。しかし、現状業務の棚卸しから始め、目的に合ったシステムを選び、運用ルールを定めて改善サイクルを回していけば、確実に成果につなげられます。

取引の形が大きく変化している今、Web受発注システムは「効率化のための仕組み」であると同時に、「顧客との関係をより強固にするための基盤」ともいえます。初めての導入であっても、一歩踏み出すことで、業務の未来を切り開く大きなチャンスとなるでしょう。