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公正取引委員会「生成AIに関する実態調査報告書」レポート解説

作成者: Yosuke Iseki|25/10/24 1:20

公正取引委員会が令和7年6月に公表した「生成AIに関する実態調査報告書ver.1.0(概要)」は、急速に成長する日本の生成AI関連市場において、「公正かつ自由な競争環境」を維持し、「更なるイノベーションを生み出す」ための競争政策上の考え方を整理したものです。

市場が黎明期にありながら流動的な状況を踏まえ、本報告書はアジャイルかつ迅速な方法で実態調査を行った結果をまとめたものであり、競争上の懸念が顕在化する前に、独占禁止法上の考え方を整理し、今後の調査継続と情報更新の方針を示しています

1. 生成AI市場の概況と調査開始の背景

成長する日本の生成AI市場

生成AIは、ビジネス革新や生産性向上、多様なサービスの提供など、経済・社会に大きな便益をもたらすポテンシャルを秘めています。

  • 市場規模: 日本における生成AI市場規模は、2023年の1,188億円から、2030年には1兆7,774億円(推計)まで急速に成長すると予測されています(年平均47.2%増)。
  • 競争環境: 市場自体は黎明期にあり、生成AIモデル等の開発競争は活発に行われています。

潜在的なリスクと競争政策上の懸念

生成AIには、知的財産権等の侵害、偽・誤情報による社会混乱といったリスクが存在しますが、公正取引委員会は特に競争政策上の観点からの潜在的なリスクに注目し、調査を開始しました。

2. 生成AI関連市場の「3つのレイヤー構造」

公正取引委員会は、生成AI関連市場を以下の3つのレイヤーに整理し、それぞれの競争環境を分析しています。

レイヤー

主な構成要素

競争環境と課題

アプリケーション

生成AIを活用したサービス(テキスト、コード、画像、動画、音声生成など)

多様な事業者が参入し、競争が激化している。既存のデジタルサービスとの機能統合やAIエージェントの登場により活用が進む。

モデル

生成AIモデル(基盤モデル(FM)、大規模言語モデル、分野特化型モデル等)

汎用型LLMの開発は資本力・技術力が豊富な企業が優位。国内企業等は、他社モデルを利用しつつ、日本語性能の強化や特定用途への特化で差別化を図る。技術革新(マルチモーダルAI、効率化技術など)次第で競争構造が大きく変化する可能性。

インフラストラクチャー

計算資源(GPU等)、データ 、専門人材

計算資源(GPU)はNVIDIA製が主流(約80%のシェア)で、学習段階の競争は活発。データは汎用型で大量、特化型で高品質が求められ、日本語特化型モデルの開発には高品質な日本語データの確保が重要。専門人材はビッグテック企業が優位だが流動性も存在。

レイヤー横断的な論点

  • クラウドサービス: 生成AIの需要拡大により競争は活発化しているが、大手3社のGPUクラウドの日本市場シェアが高く、先行する海外事業者が中心。
  • 開発環境等の切替え・移行: ハードウェアやクラウド環境の変更はコストや工数が多大で切替えが容易ではないという指摘と、容易に行えるという指摘が並存。
  • パートナーシップ: ビッグテック企業とスタートアップ企業との連携が活発だが、競争を高める可能性競争を弱める可能性の両方が指摘されている。

3. 独占禁止法上の主な懸念と公正取引委員会の考え方

情報・意見募集の結果、特に競争上の懸念として意見が寄せられた「アクセス制限・他社排除」「抱き合わせ」について、独占禁止法上・競争政策上の考え方が整理されました。

1. アクセス制限・他社排除

  • 寄せられた懸念: モバイルOSの開発事業者が、デバイス上で生成AIモデルを動作させるために必要な特定のソフトウェアへのアクセスを制限することで、サードパーティーのAIモデル開発事業者にコスト増加や競争上の不利益が生じるという懸念。
  • 独占禁止法上の考え方: 一般に、計算資源(GPU等)、データ、専門人材などの市場で強固な地位を構築している事業者がアクセスを制限することにより、新規参入者や既存の競争者が代替的な取引先を確保できなくなり、市場閉鎖効果が生じる場合には、私的独占不公正な取引方法として独占禁止法上問題となるおそれがある。

2. 抱き合わせ

  • 寄せられた懸念: デジタルサービス市場で有力な地位を有する事業者が、既存のデジタルサービス製品に自社開発した生成AIプロダクトを統合して販売する(統合提供)ことにより、競合他社が生成AIサービス市場で流通上の優位性を得られず、競争が難しくなるという懸念。
    • 対立意見: 自社サービスへの機能統合は当然であり、サービスの機能を向上させるための機能拡張であり、抱き合わせ販売とはいえない、との意見も寄せられています。
  • 独占禁止法上の考え方: 一般に、特定のデジタルサービス市場において強固な地位を有する生成AIモデル提供事業者が、自社の生成AIモデルを当該デジタルサービスに統合して提供することにより、競合する生成AIモデル提供事業者や新規参入者が取引先を容易に確保できなくなり、市場閉鎖効果が生じる場合には、私的独占不公正な取引方法(抱き合わせ販売等)として独占禁止法上問題となるおそれがある。

公正取引委員会は、これらの考え方を踏まえつつ、引き続き市場の動向を注視し、実態調査を継続していく方針です。

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