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経産省「2025年版ものづくり白書」レポートに見る課題と展望

作成者: Yosuke Iseki|25/10/22 1:56

この記事では、経済産業省「2025年版ものづくり白書」レポートに見る課題と展望について、解説します。

第1章 日本の製造業の現状と動向

2025年版白書によると、製造業は依然としてGDPの約2割を占め、日本経済の屋台骨である。一人当たりの労働生産性も上昇傾向を維持し、全産業平均の約1.3倍に達した。

しかし、業況DIは大企業で一時改善したものの、2025年春には悪化へ転じた。中小企業は徐々に回復傾向にある。設備投資もコロナ後に100兆円を突破し、堅調に推移している。

だが、原材料・エネルギー価格の高騰、人手不足が依然として構造的な課題である。事例として、トクヤマは調達多元化とBCP強化でサプライチェーンの安定を図り、住友大阪セメントはカーボンニュートラル実現に向けた400億円規模の環境投資を進めるなど、両社とも環境変化を前提とした成長戦略を描いている。

第2章 人材確保と育成の課題

製造業の就業者数は2024年に1,046万人と微減し、特に若年層の減少と人手不足が深刻化している。厚労省調査によると、従業員数過不足DIはマイナス18.2と、コロナ前の水準に戻ったが「不足」感は依然強い。能力開発では、正社員のOFF-JT実施率がコロナ前を超えた一方、非正規層では回復が遅れている。

企業規模間の格差も拡大しており、大企業で9割近い実施率に対し、中小では7割前後にとどまる。政府は人材開発支援助成金などを通じて支援を強化し、地域生産性センターによる訓練相談や教育訓練給付制度を拡充している。

DX時代の人材育成も進む中、山本工作所が「設備の見える化」で生産効率と学習を両立、旭ウエルテックが「職人トラの巻」で技能継承を推進するなど、現場主導の学習改革も進展している。

第3章 教育・研究開発による未来基盤の構築

文科省パートでは、数理・データサイエンス・AI教育を軸に、Society 5.0を支える人材の育成を推進。大学・高専を中心にモデルカリキュラム整備やダブルメジャー制度を拡充し、半導体など成長分野における産学連携を強化している。マイスター・ハイスクール制度では、地域中核産業の技術者養成や、実践的リカレント教育の確立が進む。

また、文化芸術分野との連携による創造的教育の促進も特徴的だ。研究開発面では、AI・量子・脱炭素など次世代技術への重点投資を継続し、産学官の連携強化を図る。特にSociety 5.0実現に向けて、データ駆動型研究の促進と技術者の高度化を柱に据えており、イノベーション創出と人材育成を一体で進める「知のエコシステム」形成を目指している。

第4章 日本製造業の競争力強化戦略

経産省は、世界で進む産業政策の潮流を踏まえ、産業競争力・脱炭素・経済安全保障を三位一体で推進する姿勢を明確にした。IMF分析では世界で2,500超の産業政策が確認され、日本も例外ではない。製造業のCO2排出量は全体の36%を占め、脱炭素と競争力強化の両立が必須課題である。大阪送風機製作所はLCAを活用し環境付加価値を創出、THKは「OMNIedge」でものづくりサービス業へ転換するなど、企業の挑戦が進む。

また、AIロボティクス開発基盤やAI契約チェックリストなど、技術と法整備の両輪でDX推進を支援。さらに、サプライチェーン全体のデータ連携によるGX実現を促し、環境・安全・経済を統合した競争力強化を目指す産業構造転換が加速している。

第5章 経済安全保障と持続的成長

経済安全保障の取組は依然として浸透途上で、製造事業者の約6割が未対応と回答している。その理由として「必要性を感じない」「何をすべきか分からない」が多いが、取組実施企業の68%が「事業の継続」に効果を感じている点が注目される。中長期的には、対応コストを上回るリスク回避効果を評価する企業が増加。

三菱電機では経済安全保障室を設置し、サプライチェーン強靭化と技術流出防止の両面で全社的対応を進めている。政府は民間ベストプラクティス集の公表や官民対話を通じて支援を強化。経済合理性と安全保障の両立を図ることで、リスクを機会に転換する「経済安保経営」への進化が求められている。

第6章 ものづくり日本大賞と人材表彰制度

2005年に創設された「ものづくり日本大賞」は、産業・社会を支える優秀な技能者を顕彰する国家的表彰制度で、2025年に第10回を迎える。内閣総理大臣賞・経産大臣賞などが授与され、企業や職人の革新を社会的に評価する場となっている。前回の受賞例では、ミスミの「Meviy」が3D CADとAIで部品調達を自動化し、デジタル製造の新たなスタンダードを示した。

また、メディカロイドの国産手術支援ロボット“hinotori”は医療×産業ロボット技術の結晶として注目を集めた。こうした表彰は、技能伝承とイノベーション促進の双方を象徴しており、「人を中心とするものづくり国家」としての日本の再興を象徴している。

第7章 政策の方向性と展望

2025年版白書の総括として、日本の製造業は「デジタル×人材×安全保障」を軸に次世代の成長基盤を再構築する段階にある。政府はDXとGXを両輪とし、中小企業の人材育成・データ連携・エネルギー転換を一体で支援。産業競争力強化法や省エネ補助金など政策資源を通じて、地域製造業の再活性化を図る。

また、グローバルサプライチェーンの再構築、AIやロボティクスへの公的投資拡大も柱となる。国際競争が激化する中、製造業は単なる効率化から脱し、「環境と人材を生かした稼ぐ力の再設計」が急務である。25年版白書は、産業政策・人材育成・経済安全保障の三領域を融合させた“統合型製造ビジョン”を描き、日本再興への道筋を提示している。

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